
団茶とは、蒸した茶葉を固めて作られるお茶の一種です。
発祥の地である中国では長い歴史を持ち、時代と共にその姿を変えながら喫茶文化の中心的な役割を担ってきました。
一般的なお茶とは異なる形状や、熟成によって生まれる独特の風味が大きな特徴です。
この記事では、団茶の基本的な知識から中国における歴史、味の特徴、そして家庭で楽しめる美味しい飲み方まで、その魅力を網羅的に解説します。
目次
団茶とは茶葉を固めて作られたお茶のこと
団茶が持つ本来の意味は、製茶の過程で蒸した茶葉を臼で搗き、型に入れて固めたお茶のことです。
その形状は円盤状やレンガ状、お椀状など様々で、形によって「餅茶(へいちゃ)」や「磚茶(たんちゃ)」、沱茶(とうちゃ)などとも呼ばれます。
また、団子のように丸めたものは「茶団(ちゃだん)」と呼ばれていました。
このように茶葉を固める製法は、長期保存や輸送の利便性を高める目的で生まれ、特に茶の産地から遠い地域へ運ぶ際に重宝されました。
現代においては、雲南省などで作られるプーアル茶がこの団茶の形態を今に伝えており、固形にすることでゆっくりと熟成が進み、独特の風味が生み出されるという利点もあります。
一般的な茶葉(散茶)との明確な違い
団茶と対照的なのが、私たちが普段よく目にする「散茶(さんちゃ)」です。
散茶とは、茶葉を固めずにバラバラの状態で仕上げたお茶の総称で、日本の煎茶や玉露、中国の緑茶や紅茶などがこれに分類されます。
団茶と散茶の最も明確な違いは、その形状にあります。
団茶は塊であるため、飲む際には専用の道具などで崩す手間が必要です。
一方、散茶はそのまま急須に入れて手軽に淹れられます。
また、形状の違いは保存性にも影響します。
空気に触れる面積が少ない団茶は、品質が変化しにくく長期保存に適しており、時間をかけて熟成させることで風味を深める楽しみ方ができます。
これに対し、散茶は鮮度が重視されることが多いという特徴があります。
団茶が辿ってきた歴史を中国の時代ごとに紹介
団茶は中国茶の長い歴史の中で非常に重要な位置を占めてきました。
唐の時代にその原型が生まれ続く宗の時代には喫茶文化の発展とともに最盛期を迎えます。
しかし明の時代になると政策の転換によって一度歴史の表舞台から姿を消すことになりました。
このように団茶は各時代の文化や政治的背景に大きく影響を受けながらそのあり方を変えてきました。
ここでは中国の時代ごとに団茶がどのような歴史を辿ってきたのかを紹介します。
唐の時代:皇帝への献上品として誕生
団茶の起源は唐の時代に遡ります。
この時代、茶はすでに広く飲まれていましたが、保存や運搬に適した固形茶として団茶が作られるようになりました。
当時の茶の専門書である陸羽の『茶経』にも、茶葉を蒸して搗き、型に入れて乾燥させるという団茶の製法が詳しく記されています。
この頃の団茶は非常に手間のかかる高級品であり、主に皇帝への献上品として扱われていました。
一般庶民が気軽に飲めるものではなく、貴族階級の贅沢品としての側面が強かったのです。
唐代に確立されたこの製法が、後の時代の喫茶文化の発展の礎となりました。
宗の時代:喫茶文化の発展とともに最盛期を迎える
宗の時代に入ると、団茶は文化的な発展とともに最盛期を迎えます。
宮廷や文人たちの間で、お茶の味や作法を競う「闘茶」という遊びが大流行し、喫茶文化は洗練を極めました。
これに伴い、団茶の製造技術も飛躍的に向上し、龍や鳳凰の模様をかたどった「龍鳳団茶」に代表されるような、見た目にも美しい工芸品のような団茶が作られるようになります。
当時の飲み方は、団茶を細かく砕いて粉末にし、お湯を注いで茶筅で泡立てる「点茶」という形式が主流でした。
この方法によって、団茶の持つ豊かな味と繊細な香りを最大限に引き出して楽しんでいたのです。
明の時代:団茶禁止令によって一度は姿を消す
団茶の歴史は、明の時代に大きな転換点を迎えます。
初代皇帝である朱元璋が、民衆の負担を軽減するという名目で「団茶禁止令」を発布したのです。
これは、皇帝への献上品として作られる高級な団茶の製造が、民衆にとって過酷な労働となっていたためでした。
この禁止令により、手間のかかる団茶の製造は公的に廃止され、代わりに茶葉をそのまま急須で淹れる、より簡便な「淹茶法」という飲み方が推奨されるようになりました。
この政策転換の結果、中国茶の主流は団茶から散茶へと移り変わり、団茶文化は一度衰退することになります。
現代の団茶:プーアル茶などに文化が受け継がれる
明代に一度は衰退した団茶の文化ですが、その伝統が完全に途絶えたわけではありません。
特に、中国の辺境地である雲南省などでは、保存と輸送の利便性から固形茶の製造が続けられていました。
現代において団茶の文化を最も色濃く受け継いでいるのが、この地域で作られるプーアル茶です。
プーアル茶は、固形にすることで長期熟成を可能にし、独特の風味を生み出します。
近年、健康志向の高まりとともにその価値が見直され、世界中で愛飲されるようになりました。
現在、日本国内でも中国茶専門店やオンラインでの販売が普及し、様々な種類の団茶を簡単に入手することが可能です。
団茶ならではの味や香りの特徴
団茶の最大の魅力は、その独特の味と香りにあります。
茶葉を固めるという特殊な製法と、時間をかけた熟成のプロセスが、一般的な散茶では味わえない複雑で奥深い風味を生み出します。
作られてすぐの新しい団茶の味もあれば、年代物となってまろやかさを増した団茶の味もあり、その表情は非常に豊かです。
ここでは、団茶が持つ特有の味わいや香りの魅力について詳しく解説します。
熟成による独特の深いコクとまろやかさが魅力
団茶の味わいを特徴づける最も重要な要素が「熟成」です。
茶葉を固い塊にすることで、内部で微生物による発酵や酸化がゆっくりと進み、時間と共に成分が変化していきます。
この経年変化により、新茶が持つ若々しい香りや渋み、苦みが次第に和らぎ、口当たりは非常にまろやかになります。
同時に、アミノ酸などのうまみ成分が凝縮され、何層にも重なった深いコクが生まれるのです。
特にプーアル茶などでは、年代を経るほどに味わいが変化し、特有の熟成香が現れます。
この時間だけが作り出すことができる円熟した風味こそ、多くの人々を惹きつけてやまない団茶の魅力と言えます。
初めてでも簡単!団茶の美味しい淹れ方
固まった形状から、一見すると淹れ方が難しそうに思える団茶ですが、いくつかのポイントさえ押さえれば、初心者でも家庭で手軽にその美味しさを引き出すことができます。
茶葉を崩す作業から、風味を目覚めさせるためのひと手間まで、基本的な手順は決まっています。
これから紹介するステップに沿って淹れることで、団茶ならではの奥深い味わいを存分に楽しむことができるでしょう。
ステップ1:茶葉を崩して適量を取り出す
団茶を淹れるための最初の準備は、固まっている茶葉を崩すことです。
この作業には「茶刀(ちゃとう)」や「茶針(ちゃしん)」といった専用の道具を使うのが理想的ですが、なければ千枚通しやマイナスドライバーのような先のとがったものでも代用できます。
道具を茶葉の側面の層に沿って差し込み、てこの原理を利用して少しずつ剥がすように崩してください。
力任せに砕くと茶葉が粉々になってしまうため、丁寧に行うのがコツです。
使用する量は、一人分あたり3〜5グラムが目安となります。
崩した茶葉は、湿気を避けるために密閉できる容器に入れて保管します。

ステップ2:洗茶で茶葉の風味を引き出す
次に「洗茶(せんちゃ)」という工程を行います。
これは、急須や蓋碗(がいわん)などの茶器に崩した茶葉を入れ、沸騰したお湯を注ぎ、すぐにそのお湯を捨てる作業です。
洗茶の目的は二つあります。
一つは、長期保存されている茶葉の表面についた塵やほこりを洗い流し、清潔にすること。
もう一つは、固く締まった茶葉に熱と水分を与えることで、茶葉を目覚めさせ、開きやすくする効果です。
このひと手間を加えることにより、一煎目からお茶の成分がしっかりと抽出され、本来の豊かな味と香りを十分に楽しむことができます。
ステップ3:お湯を注いで蒸らし、好みの濃さで楽しむ
洗茶を終えたらいよいよお茶を抽出します。再び茶器に熱湯を注ぎ蓋をして蒸らします。蒸らし時間はお茶の種類や個人の好みによって調整しますが、一煎目は20秒から30秒程度の短時間から始めると良いでしょう。淹れたお茶は茶海(ちゃかい)と呼ばれるピッチャーに注ぎ切ることで、複数人で飲む場合でも濃さを均一に保てます。
団茶は何度も繰り返しお湯を注いで飲める耐久性の高さも特徴です。二煎目以降は蒸らし時間を少しずつ長くしながら、煎を重ねるごとに変化していく味や香りのグラデーションをゆっくりと楽しみましょう。
日本でも楽しめる代表的な団茶の種類
団茶は主に中国で発展してきたお茶ですが、現在では日本国内でも様々な種類を見つけ楽しむことが可能です。
中国茶の専門店やインターネット通販などを利用すれば、本場の代表的な団茶から日本独自の製法で作られる希少なお茶まで幅広く手に入ります。
ここでは日本でも比較的購入しやすく団茶の入門としてもおすすめできる代表的な種類をいくつか紹介します。
プーアル茶
団茶と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、このプーアル茶でしょう。
中国雲南省原産の後発酵茶で、固形茶の代表格として世界的に知られています。
プーアル茶には、麹菌を使って短期間で発酵させる「熟茶」と、長期間かけて自然に発酵・熟成させる「生茶」の二種類が存在します。
熟茶は、独特の土のような香りと、まろやかでコクのある甘みが特徴です。
一方の生茶は、若いものは緑茶に似た爽やかな風味ですが、熟成が進むにつれて複雑で深みのある味わいへと変化していきます。
長期熟成による風味の変化を楽しめるのが最大の魅力です。
碁石茶
碁石茶は高知県大豊町に古くから伝わる日本で唯一の製法で作られる大変珍しい後発酵茶です。
その製造方法はまず茶葉を蒸した後にカビ付けを行う一次発酵と桶に漬け込んで乳酸菌発酵させる二次発酵という二段階の発酵を経るのが特徴です。
発酵が終わった茶葉の塊を約3cm四方に断裁したものが黒い碁石のように見えることから「碁石茶」と名付けられました。
植物性の乳酸菌による爽やかな酸味とすっきりとした独特の風味が魅力でお茶として飲むだけでなく茶粥にして食べるなど地域独自の食文化としても根付いています。
まとめ
団茶は、蒸した茶葉を固めて作られるお茶であり、その歴史は中国の唐代にまで遡ります。
皇帝への献上品として生まれ、宋代には文化の隆盛とともに最盛期を迎えましたが、明代の政策により一度衰退しました。
しかし、その文化はプーアル茶などに受け継がれ、現代でも多くの人々に愛飲されています。
団茶の大きな特徴は、散茶とは異なり、長期保存と熟成に適している点です。
時間をかけることで生まれる深いコクとまろやかな味わいは、団茶ならではの魅力と言えます。
専用の道具で茶葉を崩し、洗茶というひと手間を加えることで、家庭でも手軽にその奥深い風味を楽しむことが可能です。







