
普段私たちが飲んでいる緑茶や紅茶、烏龍茶は、すべて同じ「チャノキ」という植物の葉から作られています。
これらのお茶の味や香りを決定づけるのが「発酵」という工程です。
この記事では、発酵とは何か、その仕組みから、発酵度合いによって生まれるお茶の種類の違いまでを解説します。
お茶の基本的な知識を身につけることで、好みの一杯を見つける手助けとなります。
目次
お茶の味わいを決める「発酵」の仕組みとは
お茶の分類で使われる「発酵」は、主に茶葉が持つ酸化酵素の働きによる化学変化を指します。 一方、一般的な食品の発酵は微生物の働きによるものですが、お茶の場合は、黒茶(後発酵茶)が乳酸菌や酵母などの微生物の働きによって発酵するため、一概に微生物が関与しないとは限りません。
この酸化、つまり発酵度合いをどの程度進めるかによって、お茶の色や香り、味といった個性が大きく変わります。 発酵をさせなければ緑茶、半ばで止めれば烏龍茶、最後まで進めれば紅茶へと変化します。
お茶における「発酵」は酸化酵素の働きによるもの
お茶の製造工程における発酵は、茶葉に含まれる酸化酵素の働きによって引き起こされます。
生の茶葉にはポリフェノールの一種であるカテキンが豊富に含まれていますが、茶葉を摘み取って揉むことで葉の細胞が壊れると、そこに含まれる酸化酵素が働き始めます。
この酵素がカテキン類と反応して酸化を進めることで、テアフラビンやテアルビジンといった新たな成分が生成されます。
これらの成分が、紅茶特有の赤い水色や深いコク、豊かな香りのもととなります。
発酵を促すために重要な「萎凋(いちょう)」という工程
お茶の発酵をコントロールする上で、萎凋は非常に重要な工程です。
萎凋とは、摘み取った生の茶葉を日光に当てたり、風通しの良い室内で広げたりして、しおれさせる作業を指します。
この工程を経ることで茶葉の水分が適度に蒸発し、青臭さが取り除かれます。
同時に、葉が柔らかくなることで細胞が壊れやすくなり、酸化酵素の働きが活発になります。
烏龍茶や紅茶の作り方において、この萎凋という方法を用いることで、特有の華やかな香りが引き出されます。
発酵の度合いは、この萎凋にかける時間によって調整されるのが一般的です。
お茶は発酵度合いによって3つの種類に分けられる
お茶は製造工程における発酵の進め具合によって大きく3つの種類に分類されます。
茶葉の酸化発酵をさせない不発酵茶、途中で発酵を止める半発酵茶、そして最後まで完全に発酵させる全発酵茶です。
この分類は茶葉が持つ酵素をどのようにコントロールするかで決まります。
それぞれの代表的な例として不発酵茶には緑茶、半発酵茶には烏龍茶、全発酵茶には紅茶が挙げられます。
茶葉を加熱処理して発酵させない「不発酵茶」
不発酵茶は、摘み取った直後の生の茶葉をすぐに加熱処理することで、酸化酵素の働きを止めて作られます。
この加熱工程は「殺青(さっせい)」と呼ばれ、これにより発酵が一切進まないため、無発酵茶とも呼ばれます。
茶葉の緑色と成分がそのまま保たれるため、淹れたお茶の水色も緑や黄色みを帯び、フレッシュな香りと爽やかな渋み、旨みが味わえるのが特徴です。
代表的な不発酵茶には、日本の煎茶や玉露、抹茶などがあり、その多くが蒸気で加熱する「蒸し製」で作られます。
途中で発酵を止めて作られる「半発酵茶」
半発酵茶は、茶葉の酸化発酵をある程度進めた段階で、加熱処理によって意図的に発酵を止めて作られるお茶です。
不発酵茶と全発酵茶の中間に位置し、発酵度合いによって多様な個性を持つのが特徴です。
発酵がごくわずかな微発酵茶や弱発酵茶は緑茶に近い爽やかな風味を持ち、発酵を強く進めた重発酵茶は紅茶のような華やかな香りとコクを備えます。
この幅広いバリエーションが半発酵茶の魅力であり、その発酵度合いによって香りや味わいが大きく異なります。
茶葉を最後まで完全に発酵させた「全発酵茶」
全発酵茶は、茶葉に含まれる酸化酵素の働きを最大限に利用し、最後まで完全に発酵させて作られるお茶の総称です。
製造工程では、萎凋や揉捻によって茶葉の細胞組織を破壊し、酸化を徹底的に促進させます。
その結果、カテキン類がテアフラビンなどの成分に変化し、水色は鮮やかな赤色や褐色を呈します。
緑茶に比べて渋みが穏やかで、深いコクと甘く華やかな香りを持つのが特徴です。
世界で最も広く飲まれている紅茶がこの全発酵茶に分類されます。
【種類別】不発酵茶・半発酵茶・全発酵茶の代表例
お茶の3つの分類である不発酵茶、半発酵茶、全発酵茶には、それぞれ具体的にどのような種類があるのでしょうか。
例えば、私たちに馴染み深い日本茶の多くは不発酵茶に分類されます。
ここでは、各分類に属する代表的なお茶の例を挙げながら、それぞれの特徴を解説します。
普段何気なく飲んでいるお茶がどの種類に該当するのかを知ることで、お茶選びの幅がさらに広がります。
すっきりした味わいが特徴の不発酵茶(緑茶など)
不発酵茶の代表は緑茶です。
日本の緑茶は、摘み取った茶葉をすぐに蒸して発酵を止めるため、茶葉本来のフレッシュな香りと旨みが保たれます。
煎茶や玉露のほか、緑茶を焙煎したほうじ茶や、茶葉を粉末状にした抹茶も、もとは不発酵の緑茶から作られます。
一方、中国では釜で炒って発酵を止める釜炒り製の緑茶が主流です。
また、製造工程でわずかに酸化発酵を進める弱発酵茶として、黄茶という種類も存在します。
華やかな香りが楽しめる半発酵茶(烏龍茶など)
半発酵茶の代表格は、主に中国や台湾で生産される烏龍茶です。
烏龍茶は発酵度の幅が非常に広く、その度合いによって色や味、香りが大きく異なる点が最大の特徴です。
例えば、発酵度が低い台湾の文山包種茶は緑茶に近い爽やかな風味を持ち、発酵度の高い東方美人は紅茶にも似た蜜のような甘い香りを放ちます。
福建省の鉄観音も有名な烏龍茶の一つです。
その水色が青みがかった緑色であることから「青茶(せいちょう)」とも呼ばれます。

深いコクと甘い香りが魅力の全発酵茶(紅茶など)
全発酵茶の代表格は紅茶です。世界中で広く飲まれており、茶葉を完全に発酵させることで、特有の赤みがかった水色、深いコク、そして甘く華やかな香りが生まれます。
カテキンが酸化によって別の成分に変化するため、緑茶に比べて渋みが穏やかになり、まろやかな味わいとなります。
インドのダージリン、スリランカのウバ、中国のキーマンが世界三大紅茶として有名ですが、近年では日本の茶葉から作られる和紅茶も人気を集めています。
麹菌などの微生物で発酵させる「後発酵茶」という種類もある
これまで解説してきた酸化酵素による発酵とは別に、微生物の働きを利用して作られる「後発酵茶(こうはっこうちゃ)」という種類も存在します。
これは、一度緑茶などと同じ製法で作ったお茶を、麹菌や乳酸菌といった微生物の力で発酵・熟成させたものです。
その作り方から、独特の熟成香とまろやかな味わいが生まれ、健康や美への効果も注目されています。
酸化発酵のお茶とは異なる、もう一つの発酵の世界が後発酵茶にはあります。
独特の熟成香が特徴の後発酵茶(プーアル茶など)
後発酵茶として世界的に知られているのが、中国雲南省が産地のプーアル茶です。
プーアル茶は黒茶の一種で、緑茶を麹菌で発酵させることにより、土を思わせるような独特の熟成香と、まろやかで深みのある味わいが生まれます。
日本にも伝統的な後発酵茶があり、徳島県の阿波晩茶や高知県の碁石茶が有名です。
これらは乳酸菌による発酵が特徴で、ほのかな酸味を持つすっきりとした味わいです。
こうした和の後発酵茶は、生産量が限られている希少なお茶として知られています。

まとめ
緑茶、烏龍茶、紅茶は、すべて同じ「チャノキ」の葉から作られ、その違いは製造工程における発酵(酸化)の度合いによって決まります。
発酵させないものが不発酵茶(緑茶)、途中で止めるのが半発酵茶(烏龍茶)、最後まで進めるのが全発酵茶(紅茶)です。
さらに、麹菌などの微生物で発酵させる後発酵茶という種類も存在します。
これらはお茶の木の葉を原料とするものに限られます。
例えば、麦茶は大麦の焙煎、ルイボスティーはルイボスというマメ科植物の葉を乾燥させて作られるため、ここで解説した発酵茶の分類には含まれません。







