
茶道における「お点前」とは、お客様のためにお茶を点てる一連の手順や作法のことを指します。
この記事では、茶道を始めたばかりの初心者の方に向けて、お点前とは何か、その基本的な意味から具体的な流れ、代表的な種類までをわかりやすく解説します。
一見複雑に見えるかもしれませんが、一つひとつの所作に込められた意味を知ることで、茶道の奥深さに触れることができるでしょう。
そもそもお点前とは?お客様をもてなすための一連の作法
お点前とは、茶の湯において亭主が客の前で茶道具を清め、抹茶を点てて振る舞うまでの一連の作法を指します。
その読み方は「おてまえ」です。
単にお茶を淹れる手順という意味だけでなく、洗練された美しい所作を通じて客をもてなすという精神的な意味合いが強く、亭主と客の心の交流を生み出すための重要な儀式です。
お点前の由来は千利休によって大成された茶道の作法にあり、亭主が客に挨拶をすることから始まり、終わりの挨拶まで、すべてがもてなしの心を表すための作法として組み立てられています。
初心者向けに解説!お点前の基本的な手順
お点前の手順は流派や種類によって異なりますが、基本的な流れは共通しています。
これから解説する手順は、初心者の方がお点前の全体像を理解するための基本的なやり方です。
一つひとつの所作には意味があり、無駄のない洗練された動きが求められます。
お茶を点てる点だけでなく、準備から片付けまでの一連の流れを意識することが、美しいお点前につながるでしょう。
焦らずに、それぞれのステップが持つ意味を感じながら学んでいくことが重要です。
ステップ1:茶道具を茶室へ運び入れる
お点前は、まず必要な茶道具を茶室に運び入れることから始まります。
亭主は水指や、棗・茶杓を乗せた茶碗など、お点前に使うための道具を運び、畳の上の決められた位置に配置します。
この最初の所作は、これから始まる茶の湯の空間を整え、客を迎える準備ができたことを示す重要な意味を持ちます。
道具を置く位置や順序は厳密に定められており、流派や棚の有無によっても異なります。
静かな中で行われるこの一連の動きは、亭主と客の双方の心を落ち着かせる効果も持っています。

ステップ2:袱紗(ふくさ)で道具を清める
茶道具を配置した後、亭主は腰につけた袱紗を取り、それを捌いて道具を清めます。
この所作は「清める」と表現されますが、物理的な汚れを落とすだけでなく、道具を精神的に清め、客への敬意ともてなしの心を示すための儀式的な意味合いが強いです。
最初に棗、次に茶杓を丁寧に拭き清めます。
袱紗の扱い方は茶道の基本となる重要な所作であり、その手つきの美しさが亭主の練度を示すとも言われます。
静寂の中、布と道具が触れ合うかすかな音だけが響き、場の緊張感を高めます。
ステップ3:お茶碗に抹茶とお湯を入れて点てる
道具を清めた後、いよいよお茶を点てる工程に入ります。
まず茶杓で棗から抹茶をすくい、茶碗に入れます。
次に、釜の湯を柄杓で汲み、茶碗に注ぎます。
この際、湯の量や温度が、お茶の味を左右する重要な要素となります。
湯を入れたら、茶筅を使って手早くかき混ぜ、きめ細やかな泡が立つように抹茶を点てる所作をします。
この一連の動作は、美味しいお茶を提供するという目的だけでなく、流れるような美しい所作を客に示す意味も含まれています。
亭主は客に最高の状態で味わってもらうため、集中してこの工程を行います。
ステップ4:点てたお茶をお客様に差し出す
心を込めて点てたお茶は、亭主から正客へと差し出されます。
亭主は茶碗の正面を客に向け、畳の縁の内側に置きます。
客は差し出されたお茶に一礼し、感謝の意を示してから茶碗を手に取ります。
お茶をいただく際には、茶碗を少し回して正面を避けるのが作法です。
客はお菓子を先にいただいた後、お茶を三口半で飲み干します。
この一連のやり取りは、亭主のもてなしの心を客が受け止める大切な場面であり、茶事の中心となる部分です。
亭主は、客がお茶を美味しく味わう様子を見守り、その時間を共有することで、もてなしを披露します。
ステップ5:最後に道具を片付ける(仕舞い)
客がお茶を飲み終えると、お点前は最後の片付け、「仕舞い」の段階に入ります。
亭主は使った茶碗に湯を注いで茶筅ですすぎ、建水に湯を捨てて茶碗を清めます。
その後、茶杓を袱紗で清め、棗の上に乗せます。
最後に、水指の蓋を閉めることで、お点前の終わりを客に示します。
この後、客から道具の「拝見」を請われることもあり、その場合は棗や茶杓などを客の前に差し出し、鑑賞の機会を設けます。
すべての道具を元の場所に戻し、亭主が退室して一連のお点前は完了となります。
静かに道具を片付ける所作もまた、美しい余韻を残すための重要な一部です。
知っておきたいお点前の代表的な種類
お点前には、季節や場所、客の人数など、状況に応じてさまざまな種類が存在します。
流派によっても作法や手順に違いがありますが、ここでは初心者の方がまず知っておきたい代表的なお点前の種類を紹介します。
それぞれのお点前は、茶道の基本となる考え方を共有しつつも、異なる特徴や歴史的背景を持っています。
どのようなお点前があるかを知ることで、茶の湯の世界がより豊かで多様なものであることが理解できるでしょう。
抹茶の点て方にも濃茶と薄茶で異なる種類があります。

平点前(ひらでまえ):すべての基本となる座礼のお点前
平点前は茶道における最も基本的で重要な座礼のお点前です。
すべての点前の基礎がこの中に詰まっており茶道を学ぶ者はまず平点前を習得することから始めます。
季節によって使用する道具の配置が異なり夏を中心とした5月から10月頃までは風炉を冬を中心とした11月から4月頃までは炉を用いて行われます。
また濃茶と薄茶でも手順が異なります。
表千家や裏千家など多くの流派で最初に行われる稽古であり裏千家のお点前においてもこの平点前を繰り返し稽古することで正しい所作と茶の湯の精神を身につけていきます。
盆略点前(ぼんりゃくでまえ):お盆の上で行う簡略化されたお点前
盆略点前は、その名の通り、お盆の上で道具を完結させる簡略化されたお点前です。
本来の茶室や正式な道具が揃わない場合でも、気軽にお茶を楽しむために考案されました。
茶道口からの道具の持ち運びなどが省略され、限られたスペースの中でも行えるのが特徴です。
山道盆などの盆の中に、茶碗、棗、茶杓、茶筅などをあらかじめ配置しておきます。
正式なお点前と比べて手順が少ないため、初心者がお茶を点てる流れを覚えるのに適しています。
茶道をより身近に感じられるお点前として、家庭や気軽な茶会などで用いられることが多いです。
季節を問わず楽しめますが、特に夏など軽やかな設えが似合う中で行われることもあります。
立礼(りゅうれい):椅子とテーブルで行う現代的なお点前
立礼は、畳に座るのではなく、椅子に座ってテーブルで行う形式のお点前です。
明治時代に海外からの賓客をもてなすために考案された、比較的新しいスタイルです。
正座が苦手な方や高齢の方、また洋室での茶会など、現代のライフスタイルに合わせてお茶を楽しめるように工夫されています。
テーブルとして使われる専用の棚を「御園棚」などと呼びます。
基本的な作法やもてなしの心は伝統的な座礼のお点前と変わりませんが、立ち座りの動作が加わる点が特徴です。
国内外問わず、多くの人が茶道文化に触れるきっかけとなるお点前として、広く普及しています。
茶箱点前(ちゃばこでまえ):野外でも楽しめる持ち運び式のお点前
茶箱点前は、茶箱と呼ばれる箱の中に茶碗や棗、茶杓、茶筅といった必要な道具一式をコンパクトに収納し、持ち運んで行うお点前です。
このお点前は、十一代玄々斎によって考案されたとされています。
このお点前の魅力は、茶室という限られた空間から飛び出し、花見や紅葉狩りなど、自然の美しい景色の中で自由にお茶を楽しめる点にあります。
箱の中にすべての道具を機能的に収めるための工夫が凝らされており、その道具を一つひとつ取り出して組み立てていく過程も見どころの一つです。
季節の移ろいを感じながら一服のお茶を点てる、風雅で開放的なお点前です。
まとめ
お点前とは、単にお茶を点てる手順ではなく、客をもてなす心、道具への敬意、そして洗練された所作の美しさが一体となった総合芸術です。
基本となる平点前から、盆略点前、立礼、茶箱点前まで、様々なお点前を知ることで、茶道の奥深さと多様性を感じられるでしょう。
煎茶道にも独自のお点前がありますが、まずは抹茶に触れるのがいいかもしれません。
もし興味が湧いたら、京都や東京などで開催されている茶会に参加したり、茶道教室を訪ねて、実際にお点前を体験してみることをお勧めします。
それぞれの流派やお点前の名前の由来を知るのも、学びを深める一つの方法です。











