
抹茶の旬はいつかと聞かれると、多くの人が新緑の季節を思い浮かべるかもしれませんが、抹茶を飲むのに最も美味しい時期、つまり旬は秋です。
有名な京都の宇治抹茶も、春に摘まれた茶葉を熟成させ、秋に最も深い味わいを迎えます。
この記事では、抹茶の旬が秋である理由や、季節ごとの楽しみ方について詳しく解説していきます。
目次
抹茶の旬は秋!煎茶とは旬の時期が異なる理由
抹茶の旬が秋であるのは、春に摘まれる新茶、つまり煎茶とは製造工程が大きく異なるためです。
煎茶は摘みたての新鮮な香りが特徴ですが、抹茶の場合は収穫後に熟成期間を設けます。
この熟成こそが、抹茶特有の風味を生み出す重要な工程なのです。
ここでは、抹茶が秋に旬を迎える理由を詳しく見ていきましょう。
春に摘んだ茶葉を夏の間じっくり熟成させるため
抹茶の原料となる茶葉(碾茶)は、新茶の季節である春、特に品質が高いとされる八十八夜の頃、つまり5月上旬に収穫されます。
丁寧に手で摘み取られた茶葉は、蒸して揉まずに乾燥させた後、すぐに石臼で挽かれるわけではありません。
茶壺や貯蔵庫に入れられ、夏の間じっくりと低温で寝かせて熟成させます。
この「寝かせる」という工程が、煎茶など春摘みの新茶の楽しみ方とは異なる、抹茶ならではの味わいを生み出すための重要な期間となります。
春に摘み、夏を超えて熟成させることで、抹茶は秋に最高の風味を迎えるのです。
寝かせることで生まれる抹茶特有のまろやかな旨味とコク
春に収穫されたばかりの茶葉には、若々しい香りがある一方で、やや青臭さや角のある渋みが感じられます。
この茶葉を夏の間寝かせることで、渋みの成分が落ち着き、味の角が取れて驚くほどまろやかな口当たりに変化します。
旨味成分と渋み成分が調和し、抹茶特有の深く豊かなコクが生まれるのです。
茶の世界では、千利休の師が「十月の壺の中の茶は格別」といった意味の言葉を残しており、熟成させた旬の抹茶の味を高く評価していました。
この熟成期間を経ることで、刺激が和らぎ、抹茶本来の旨味や甘みが最大限に引き出されます。
11月は茶道における新年行事「口切りの茶事」の季節
抹茶の旬が秋であることは、茶道の世界の伝統行事からも窺い知ることができます。
毎年11月頃になると、茶家では「口切りの茶事」と呼ばれる特別な茶会が催されます。
これは、春に摘んで夏の間熟成させてきた茶壺の封を初めて切り、その年一番の抹茶を客人に振る舞う行事です。
茶人の正月ともいわれるほど重要視されており、福寿園などの茶舗でもこの時期に「熟成された抹茶」が並び始めます。

茶壺の封を切りその年初めての抹茶を味わう特別な茶会
口切りの茶事では、まず春に摘んだ新茶を詰めた茶壺が客人の前に運び出されます。
この茶壺の口は和紙で厳重に封をされており、夏の間、大切に保管されていました。
亭主がその封を小刀で切り、初めて壺の中から茶葉を取り出します。
この瞬間こそが、熟成されたお茶との初対面の時です。
その後、取り出された茶葉は客人の目の前で石臼を使って丁寧に挽かれ、挽きたての抹茶として点てられます。
これは、いわばもう一つのお茶の解禁日ともいえる特別な儀式であり、参加者はその年初めての、最も美味しい状態の抹茶を味わうことができるのです。
抹茶スイーツが市場に最も多く出回る時期は冬
抹茶そのものの旬は秋ですが、私たちが普段目にする抹茶スイーツやドリンクなどの商品は、実は冬に最も多く市場に出回ります。
コンビニやスーパーの棚に抹茶味のお菓子がずらりと並ぶ光景は、冬の風物詩ともいえるかもしれません。
抹茶の旬と、関連商品が売れる時期にはズレがあるのです。
この背景には、スイーツ市場ならではの季節的な要因や、消費者の需要が大きく関係しています。
バレンタインシーズンの需要に合わせて2月に流通量が増加
冬、特に1月から2月にかけて抹茶スイーツが増える一因として、バレンタインデーが挙げられます。抹茶のほろ苦さと濃厚な風味はチョコレートの甘さと相性が良いとされており、この時期には多くのメーカーから抹茶を使ったチョコレートやケーキなどの新商品が発売される傾向があります。
バレンタイン商戦に向けて各社が1月頃から商品を市場に投入し始めるため、2月には抹茶スイーツの流通量が増加します。定番のチョコレートとは異なる「和」のテイストは特別感を演出しやすく、贈り物としての需要が高いことも、この時期に抹茶スイーツが注目される理由の一つと考えられます。
春に抹茶味のお菓子が増えるのはなぜ?
冬のバレンタインシーズンと並んで、春にも抹茶味のお菓子を見かける機会が増えます。
新茶の季節だから、と考える人も多いかもしれませんが、抹茶そのものの旬は秋です。
では、なぜ春にも抹茶のお菓子が多くなるのでしょうか。
これには、抹茶が持つ「色」のイメージが大きく関わっています。
春という季節感と抹茶のイメージが合致することが、この時期に商品が増える理由なのです。
新緑をイメージさせる鮮やかな緑色が春の季節感に合うから
春の季節に多くの人が思い浮かべるのは、芽吹いたばかりの若葉や生命力あふれる新緑の風景です。抹茶の鮮やかな緑色は、まさにこの春のイメージと重なります。そのため、食品メーカーは抹茶の持つ「春らしい見た目と雰囲気」が、若葉や新緑を思わせる春のイメージと合致することから、春のマーケティング戦略に抹茶を取り入れることが多いです。
桜をテーマにした商品の淡いピンク色と抹茶の緑色を並べることで、彩りも豊かになり、売り場全体が華やかな春の雰囲気に包まれます。 消費者が商品から春の訪れを感じ取りたいというニーズに応える形で、抹茶の緑色がマーケティングに活用されているのです。
旬だけじゃない!四季折々の抹茶の楽しみ方
抹茶の旬は秋ですが、その楽しみ方は一つのシーズンに限りません。
季節の移ろいに合わせて飲み方や味わい方を変えることで、一年を通して抹茶を気軽に楽しむことができます。
春にはフレッシュな風味を、夏には涼やかな一杯を、そして冬には心温まるアレンジで。
ここでは、四季それぞれの気候や気分に合わせた、抹茶の楽しみ方を紹介します。
春:フレッシュな香りが楽しめる「新抹茶」を味わう
春には、秋の旬の抹茶とは一味違う「新抹茶(しんまっちゃ)」を楽しむのがおすすめです。
これは、熟成させずに春に収穫したばかりの茶葉をすぐに石臼で挽いて作られた抹茶のことです。
熟成抹茶のまろやかさとは対照的に、若葉のような爽やかでフレッシュな香りと、軽やかな渋みが特徴です。
この時期ならではのキレのある味わいは、桜餅や草餅といった春の和菓子との相性も抜群。
秋の熟成された味と飲み比べてみるのも、美味しい抹茶の楽しみ方の一つです。
夏:冷たい水で点てた冷抹茶で涼をとる
汗ばむ夏の季節には、キリッと冷やした「冷抹茶」が最適です。
通常はお湯で点てる抹茶ですが、冷たい水でも美味しくいただけます。
ダマにならないように、まず少量の常温水かお湯で抹茶をペースト状によく練り、そこに冷水や氷を加えて点てるのがポイントです。
お湯で点てた時よりも苦みや渋みが抑えられ、すっきりとした爽快な味わいが楽しめます。
グラスに注いで涼しげな見た目を楽しむのも良いですし、バニラアイスやかき氷のシロップ代わりに使うなど、冷たいデザートへのアレンジも豊富です。

秋:熟成された本来の旬の味をじっくり堪能する
秋は、いよいよ抹茶が本来の旬を迎える季節です。
ひと夏を越してじっくりと熟成された茶葉は、角が取れて丸みを帯び、旨味とコクが凝縮されています。
この時期にしか味わえない、深くまろやかな味わいを、ぜひ時間をかけて堪能してみてください。
虫の音が聞こえる静かな秋の夜、温かい一服の抹茶を点てて、ゆったりと過ごす時間は格別です。
栗を使ったお菓子や月見団子など、秋ならではの和菓子と共にいただけば、より一層季節の深まりを感じられます。
冬:抹茶ラテや濃厚なスイーツで心温まるひとときを
寒い冬には、体を芯から温めてくれるアレンジで抹茶を楽しむのがおすすめです。
代表的なのが、温かいミルクと合わせた抹茶ラテです。
抹茶のほろ苦さにミルクの優しい甘みが加わり、ホッと一息つける癒しのドリンクになります。
お好みで砂糖やはちみつを加えて甘さを調整するのも良いでしょう。
また、冬はこってりとしたものが美味しく感じられる季節でもあります。
チョコレートや生クリームをふんだんに使った濃厚な抹茶のガトーショコラやティラミスなど、リッチな味わいのスイーツで心温まるティータイムを過ごすのも冬ならではの楽しみ方です。
まとめ
抹茶の旬は新緑の季節ではなく秋です。
これは春に収穫した茶葉を夏の間じっくりと熟成させることでまろやかで深い味わいが生まれるためです。
茶道の世界でも11月頃の「口切りの茶事」でその年初めての抹茶を祝う慣わしがあります。
一方で抹茶スイーツはバレンタイン需要のある冬や新緑のイメージに合う春に多く販売されます。
このように抹茶そのものを飲む旬と関連商品が出回る時期は異なります。
旬の時期を知り季節に合わせた飲み方や楽しみ方を工夫することで一年を通して抹茶の奥深い魅力をより一層感じられるようになります。







