
玉露と煎茶の違いは、栽培方法にあります。
どちらも同じ「緑茶」の仲間ですが、日光を遮って育てるか否かで、味や香り、成分が大きく変わります。
この記事では、玉露と煎茶の基本的な違いから、かぶせ茶や抹茶、ほうじ茶といった他のお茶との比較、そして気分やシーンに合わせた選び方まで、初心者にも分かりやすく解説します。
目次
そもそも玉露と煎茶はどちらも「緑茶」の仲間
玉露と煎茶は、どちらもツバキ科の常緑樹である「チャノキ」の葉から作られる「緑茶」の一種です。
緑茶とは、収穫した茶葉をすぐに加熱処理(蒸す、または炒る)することで、酸化酵素の働きを止めて作られる「不発酵茶」の総称です。
そのため、茶葉の緑色やフレッシュな風味が保たれます。
同じ茶の木から作られながらも、栽培方法に違いがあるため、それぞれが異なる個性を持つお茶になります。
一目でわかる!玉露と煎茶の5つの違いを比較
玉露と煎茶は同じ緑茶の仲間でありながら、多くの点で異なる特徴を持っています。
両者の違いを理解することで、より深くお茶の世界を楽しめます。
ここでは、栽培方法、味と香り、含まれる成分、美味しい淹れ方、そして価格という5つの観点から、煎茶と玉露の具体的な違いを比較して解説します。
それぞれの個性を知ることで、好みに合ったお茶を見つける手助けになるでしょう。
栽培方法の違い:日光を浴びる時間が異なる
玉露と煎茶の最も根本的な違いは、栽培方法にあります。
煎茶は、収穫の時期までずっと太陽の光を浴びて育てられるのが一般的です。
一方、玉露は収穫前の約20日間、わらや寒冷紗といった覆いを茶園にかぶせて日光を遮る「被覆栽培」という特別な方法で育てられます。
この日光を遮るひと手間が、玉露特有の旨味や香りを生み出す重要な工程です。
この栽培方法の違いが、味や香り、含有成分など、あらゆる差異の源泉となっています。

味と香りの違い:旨味の玉露、爽やかさの煎茶
栽培方法の違いは、味と香りに顕著な差をもたらします。
日光を遮って育てる玉露は、茶葉の旨味成分であるテアニンが増加し、渋み成分のカテキンの生成が抑えられます。
その結果、とろりとした濃厚な旨味と甘み、そして「覆い香(おおいか)」と呼ばれる海苔に似た独特の香りが生まれます。
対照的に、太陽の光をたっぷり浴びて育った煎茶は、爽やかな香りと、旨味・甘み・渋みのバランスが取れたすっきりとした味わいが特徴です。
日常的に飲むお茶として親しまれている、親しみやすい味が魅力です。
含まれる栄養成分の違い:テアニンとカテキンの量
味の違いは、含まれる栄養成分の量に直結しています。
玉露は日光を遮る栽培方法により、旨味やリラックス効果に関わるアミノ酸の一種「テアニン」が豊富に含まれます。
日光を浴びるとテアニンは渋み成分の「カテキン」に変化しますが、玉露ではその変化が抑制されるためです。
一方で、煎茶は日光をたくさん浴びることで光合成が活発になり、テアニンからカテキンが多く生成されます。
カテキンはポリフェノールの一種で、すっきりとした渋みの元となる成分です。
そのため、玉露はテアニンが多く、煎茶はカテキンが多いという成分構成になります。
美味しい淹れ方の違い:お湯の温度がポイント
それぞれの個性を最大限に引き出すには、淹れ方、特に「お湯の温度」が重要です。
玉露の濃厚な旨味成分であるテアニンは低温でじっくりと溶け出すため、50~60℃程度のぬるめのお湯で2~3分かけて抽出します。
高温で淹れると渋み成分が多く出てしまい、せっかくの旨味が損なわれます。
一方、煎茶は70~80℃のやや高めのお湯で1分程度、短時間で淹れるのがおすすめです。
爽やかな香りと程よい渋みをバランスよく引き出せます。
なお、2煎目は玉露も煎茶も1煎目より少し高めの温度で淹れると、また違った味わいを楽しめます。
価格相場の違い:玉露のほうが高価な傾向
一般的に、玉露は煎茶よりも高価です。
その主な理由は、栽培に手間がかかる点にあります。
玉露の栽培には、収穫前に茶園全体に覆いをかける「被覆栽培」という工程が必要であり、多くの労力とコストを要します。
また、生産量も煎茶に比べて限られているため、希少価値が高くなります。
価格の目安として、100gあたりで比較すると、煎茶は数百円から手に入るものが多いのに対し、玉露は1,000円以上の価格帯が中心です。
もちろん、品質や等級によって価格は大きく変動しますが、この価格差は栽培方法の違いによるものが大きいと言えます。
玉露・煎茶と他のお茶にはどんな違いがある?
日本茶には玉露と煎茶以外にも、さまざまな種類のお茶が存在します。
例えば、玉露と煎茶の中間的な特徴を持つ「かぶせ茶」や、茶葉を粉末状にした「抹茶」、そして茶葉を焙煎して作られる香ばしい「ほうじ茶」などがあります。
これらのお茶も元は同じチャノキの葉から作られますが、栽培方法や製造工程の違いによって、それぞれ全く異なる風味や楽しみ方が生まれます。
他のお茶との違いを知ることで、より深くお茶の世界を理解できるでしょう。
「かぶせ茶」は玉露と煎茶の中間的な存在
かぶせ茶は、栽培方法において玉露と煎茶の中間に位置するお茶です。
玉露が収穫前に約20日間日光を遮るのに対し、かぶせ茶の被覆期間は収穫前の1週間から10日程度と短めです。
この栽培方法により、かぶせ茶は玉露のようなまろやかな旨味と、煎茶の持つ爽やかさの両方を兼ね備えた味わいになります。
まさに煎茶と玉露の「いいとこ取り」とも言える特徴を持ち、玉露ほど格式張らず、煎茶よりもワンランク上の旨味を楽しみたい時に適しています。
価格も両者の中間くらいに位置することが多いお茶です。
「抹茶」は茶葉を粉末状にしている点が異なる
抹茶は、玉露と同様に日光を遮って育てられた茶葉から作られますが、製造工程と飲用方法が根本的に異なります。
抹茶の原料となる茶葉(碾茶)は、蒸した後に揉まずに乾燥させ、茎や葉脈を取り除いた後、石臼などで挽いて微粉末状にされます。
そのため、煎茶や玉露のようにお湯で成分を「抽出」して飲むのではなく、お湯に「溶かして」茶葉そのものを飲むことになります。
この点が他の緑茶との最大の違いであり、茶葉に含まれるカテキンやビタミンなどの栄養成分を丸ごと摂取できるという利点があります。
「ほうじ茶」は茶葉を焙煎して作られる
ほうじ茶は、煎茶や番茶、茎茶などを強火で焙煎して作られるお茶です。
この焙煎という加熱工程によって、茶葉は褐色に変わり、独特の香ばしい香りが生まれます。
高温で焙煎することにより、緑茶に含まれるカフェインや、渋み成分であるカテキンが減少するのが大きな特徴です。
そのため、苦みや渋みが少なく、すっきりと飲みやすい味わいになります。
カフェインが少ないことから、小さなお子様やご年配の方、また就寝前に飲むお茶としても安心して楽しめます。
原料は同じ茶葉でも、最後の加工で全く異なる個性を持つお茶です。
どっちがおすすめ?気分やシーンに合わせた選び方
玉露と煎茶、それぞれに異なる魅力があることを解説しました。
どちらが良いということではなく、その日の気分や飲むシーンによって使い分けるのが上手な選び方です。
例えば、特別な時間を過ごしたい時や心からリラックスしたい時には玉露を、毎日の生活の中で気軽にリフレッシュしたい時には煎茶を選ぶなど、それぞれの特徴を理解することで、お茶のある生活がより一層豊かなものになります。

濃厚な旨味をじっくり味わいたいときは玉露
特別な来客のおもてなしや、日常から少し離れて心を落ち着かせたい時、あるいは自分へのご褒美として贅沢な時間を過ごしたい場合には、玉露がおすすめです。
低温のお湯でゆっくりと時間をかけて淹れる工程そのものが、心を整える時間となります。
とろりとした一滴に凝縮された濃厚な旨味と甘みは、少量でも高い満足感を与えてくれます。
上質な和菓子などと一緒に、その奥深い味をじっくりと堪能するのが良い選び方です。
お茶そのものの味を主役として楽しみたいシーンに最適な選択です。
すっきりした味わいを日常的に楽しみたいときは煎茶
毎日の食後の一杯や、仕事や勉強の合間のリフレッシュ、家族や友人との気兼ねないお茶の時間には、煎茶がぴったりです。
爽やかな香りと、旨味と渋みのバランスがとれたすっきりとした味は、気分を切り替えたい時に最適です。
和菓子はもちろん、クッキーやケーキなどの洋菓子にも合わせやすく、シーンを選ばずに楽しめます。
比較的手頃な価格帯の商品が多く、淹れ方も簡単なため、日常的にたくさん飲むお茶としての選び方に向いています。
生活に寄り添う親しみやすい存在です。
まとめ
玉露と煎茶の最も大きな違いは、日光を遮るか否かという栽培方法にあります。
この違いが、玉露の濃厚な旨味と「覆い香」、そして煎茶の爽やかな香りとバランスの取れた味わいという、それぞれの個性的な味や香りを生み出しています。
また、含まれる成分や美味しい淹れ方、価格にも差が生まれます。
玉露は特別な時間のために、煎茶は日々の暮らしの中で、といったようにシーンに合わせて選ぶことで、日本茶の楽しみはさらに広がります。
それぞれの特徴を理解し、お茶のある豊かな時間を過ごしてみてください。