コラム

釜炒り茶とは?煎茶との違いや独特の香りの魅力を解説

2025.11.22

釜炒り茶とは、摘み取った茶葉を蒸さずに高温の釜で炒って作られる日本茶の一種です。
現在、日本で生産されるお茶の多くは、茶葉を蒸して熱処理する煎茶ですが、釜炒り茶は炒ることで酸化を止めるため、独特の香ばしい「釜香(かまか)」が生まれます。

この記事では、釜炒り茶の特徴や歴史、煎茶との製法の違い、そして香りを最大限に楽しむための淹れ方までを詳しく解説します。

釜炒り茶とは?独特の香ばしい香りが特徴のお茶

釜炒り茶の最大の特徴は、「釜香」と呼ばれる独特の香ばしい香りにあります。
これは、製造工程の最初に茶葉を高温の釜で炒ることで生まれるもので、蒸して作られる一般的な緑茶にはない魅力です。
味わいはすっきりとしていて渋みが少なく、まろやかな甘みを感じられます。

釜炒り茶も緑茶の一種であり、カテキンやテアニンといった健康に寄与する成分を含んでおり、リラックス効果などが期待できます。

釜炒り茶のルーツをたどる!中国から伝わった歴史

釜炒り茶の歴史は古く、その製法は15世紀頃に中国から伝わったとされています。
現在の日本では煎茶が主流ですが、かつてはこちらの製法が一般的でした。
この伝統的な製法は、現在では九州の一部の地域で受け継がれており、国内の緑茶生産量における釜炒り茶の割合は1%未満と非常に希少です。

主な産地は宮崎県や熊本県、佐賀県の嬉野、長崎県などで、特に宮崎県の高千穂や五ヶ瀬、佐賀県の嬉野茶は有名です。
この製法で作られたお茶は、青柳茶とも呼ばれます。

釜炒り茶と煎茶の決定的な違いは「熱処理」の方法

釜炒り茶と煎茶の最も大きな違いは、茶葉の酸化を止める「殺青(さっせい)」という工程における熱処理の製法にあります。
釜炒り茶は、その名の通り鉄製の釜で茶葉を「炒る」ことで加熱処理を行います。

一方、現在の日本茶の主流である煎茶は、高温の蒸気で茶葉を「蒸す」ことで熱を加えます。
この最初の工程の違いが、両者の香りや味わいに決定的な差を生み出す要因となり、釜炒り茶は香ばしい釜香、煎茶は爽やかな香りというそれぞれの特徴を持つことになります。

香りを引き出す釜炒り茶の独特な製造工程

釜炒り茶の独特な香りと味わいは、いくつもの繊細な工程を経て生み出されます。
まず、高温の釜で茶葉を炒って酸化を止める「炒り葉」から始まり、形を整えながら水分を抜く「揉捻」、さらに乾燥させながら揉む「水乾」へと続きます。

その後、勾玉のような丸い形状に仕上げる「締め炒り」を経て、最後にじっくりと乾燥させることで、あの香ばしい風味が完成します。
それぞれの工程が、香りや味、水色、そして茶葉の形状に深く関わっています。

茶葉の酸化を止める「炒り葉」

釜炒り茶の製造工程は、摘み取った生葉を高温の釜で炒る「炒り葉」から始まります。これは「殺青(さっせい)」と呼ばれる、茶葉の発酵(酸化)を止めるための重要な作業です。釜の温度は約300℃で、茶葉の水分を飛ばしながら均一に熱を通すことで、酸化酵素の働きを止めます。

この高温で炒る工程によって、蒸し製のお茶にはない「釜香(かまか)」と呼ばれる、釜炒り茶特有のこうばしい香りが生まれます。職人は釜に手を入れ、茶葉の状態を確かめながら焦げ付かないように混ぜ続けるため、熟練の技術と経験が求められる工程です。この最初の熱処理方法が、釜炒り茶の個性を決定づけます。

形を整えながら水分を抜く「揉捻(じゅうねん)」

炒り葉の工程で酸化を止めた茶葉は、次に「揉捻(じゅうねん)」という工程に移ります。
これは、茶葉を揉みながら水分を均一にし、茶葉の組織を壊すことで、お茶の成分が抽出されやすくするための作業です。
釜の中で熱を加えながら、あるいは釜から出して熱いうちに、茶葉に圧力をかけて揉み込んでいきます。

この工程を経ることで、お茶を淹れた際の味や水色がより豊かになります。
茶葉の形を整え、後の工程で美しい勾玉状に仕上げるための下準備としての役割も担っており、釜炒り茶の品質を左右する重要な段階です。
職人は茶葉の弾力や水分量を感じ取りながら、力加減を調整します。

乾燥させながら揉む「水乾(すいかん)」

揉捻の次に行われるのが水乾という工程です。
この段階では、引き続き釜の中で茶葉を揉みながら、さらに乾燥を進めていきます。
熱を加えつつ攪拌することで、茶葉内部の水分を効率的に蒸発させ、風味を凝縮させることが目的です。
この作業を繰り返すことで、茶葉の水分量は徐々に減少し、釜炒り茶特有の香りがより一層引き立ちます。

また、揉み続けることによって茶葉はさらに撚られ、後の工程で独特の丸みを帯びた形状になるための基礎が作られます。
茶葉が持つポテンシャルを最大限に引き出すためには、温度と揉み方のバランスが重要となる繊細な作業です。

独特の形状に仕上げる「締め炒り」

水乾工程で乾燥が進んだ茶葉は、最後に「締め炒り」という工程で仕上げられます。
この工程では、熱を加えながら茶葉を釜の中で回転させるように揉み込み、独特の丸みを帯びた形状、いわゆる勾玉(まがたま)のような形に整えていきます。
このぐりっと丸まった形状が特徴的なお茶は「玉緑茶(たまりょくちゃ)」と呼ばれ、釜炒り製法で作られたものは特に「釜炒り製玉緑茶」と区別されます。

この丸い形状は、茶葉が折れたり砕けたりするのを防ぐだけでなく、お茶を淹れた際にゆっくりと成分が抽出される効果ももたらします。
見た目の美しさと、味わいの深さを両立させるための重要な仕上げ工程です。

風味を閉じ込める最後の「乾燥」

締め炒りで美しい形状に整えられた茶葉は、最後の乾燥工程に入ります。釜から取り出された茶葉にはまだわずかに水分が残っているため、専用の乾燥機を使い、低温でじっくりと時間をかけて水分を取り除きます。この最終乾燥によって、茶葉の含水率を長期保存に適した状態(約5%以下)まで下げることが可能です。

水分を完全に取り除くことで、これまでの工程で育まれた釜炒り茶特有の香ばしい釜香や豊かな風味を茶葉の中にしっかりと閉じ込めます。また、この乾燥工程は茶葉の最終的な色艶に影響を与え、釜炒り茶は一般的に茶葉の色は少しくすんだ見た目になりますが、淹れたお茶は透明感のある黄金色になります。

釜炒り茶の魅力を最大限に引き出す美味しい淹れ方

釜炒り茶の香ばしい魅力を引き出すには、少し高めの温度のお湯で淹れるのがおすすめです。
一般的な煎茶よりも高温の、80〜90℃のお湯を使うことで、特徴である「釜香」がより一層引き立ちます。
まず、急須に茶葉を一人あたり約3g入れ、沸騰させた後少し冷ましたお湯を注ぎます。

抽出時間は30秒から1分程度を目安にし、長すぎると渋みが出やすくなるため注意が必要です。
最後の一滴まで注ぎ切ることで、二煎目も美味しくいただけます。
この淹れ方で、釜炒り茶ならではのすっきりとした味わいと豊かな香りを楽しめます。

まとめ

釜炒り茶は、高温の釜で茶葉を炒るという伝統的な製法によって、独特の香ばしい「釜香」が生まれる日本茶です。現在主流である蒸し製の煎茶とは、最初の熱処理工程が異なるため、香りや味わいに明確な違いがあります。釜炒り茶の製法は中国から伝わったとされています。

生産量が少なく希少なお茶ですが、そのすっきりとした後味と豊かな香りは多くの人々を魅了します。淹れ方を少し工夫するだけで、その魅力を存分に引き出すことが可能です。

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