
静岡県掛川市で生産される掛川茶は、日本を代表する「深蒸し茶」の一種です。
一般的なお茶とは異なり、苦渋みが少なくコク深いまろやかな味が特徴として知られています。
この記事では、掛川茶の基本的な情報から、その独特な味や見た目が生まれる理由、そして自宅で楽しめる美味しい入れ方まで、掛川茶の魅力について解説します。
目次
掛川茶とは静岡県掛川市で生産される「深蒸し茶」のこと
掛川茶とは、静岡県掛川市周辺の産地で生産される緑茶の総称であり、その定義の核となるのが「深蒸し茶」である点です。
深蒸し茶は、一般的な煎茶よりも蒸し時間を2〜3倍長くする「深蒸し製法」で作られます。
通常の煎茶の蒸し時間が30秒から40秒程度であるのに対し、深蒸し茶は60秒から120秒、時にはそれ以上の時間をかけて茶葉をじっくりと蒸し上げます。
この製法により茶葉の組織が十分に破壊され、お茶の成分が抽出しやすくなります。
この丁寧な工程が、掛川茶ならではのまろやかな味わいと鮮やかな緑色の水色(すいしょく)を生み出す源泉です。
掛川茶の味や見た目に現れる3つの特徴
掛川茶の魅力は、その独特な味や見た目に集約されています。
一般的な煎茶とは一線を画すこれらの特徴は、すべて「深蒸し製法」に由来するものです。
深く長く蒸す工程を経ることで、茶葉の成分が抽出しやすくなり、お茶を淹れた際の味わいや水色、そして茶葉そのものの形状に変化が生まれます。
ここでは、掛川茶ならではの代表的な3つの特徴について、それぞれ詳しく見ていきます。
特徴①:苦渋みが少なくコク深いまろやかな味わい
掛川茶の最も際立った特徴は、口当たりが良く、コク深いまろやかな味わいです。
一般的な煎茶に感じられるキリっとした渋みや苦みは控えめで、代わりに豊かな甘みと旨みが口の中に広がります。
これは、製造工程で茶葉を長く蒸すことにより、渋み成分であるカテキンの働きが抑えられるためです。
同時に、旨み成分であるアミノ酸が浸出しやすくなるため、濃厚で飲みごたえのある味わいが生まれます。
お茶の渋みが苦手な方や、リラックスタイムにほっと一息つきたい時に適した、優しく奥深い味わいが掛川茶の魅力です。
特徴②:濃厚で美しい緑色の水色(すいしょく)
掛川茶を淹れた際にまず目を引くのが、その深く美しい緑色の水色です。
一般的な煎茶が透明感のある黄色がかった黄金色であるのに対し、掛川茶はやや濁りを伴った濃厚な緑色をしています。
この色の違いも深蒸し製法によるものです。
長く蒸すことで茶葉の細胞壁が壊れ、葉の内部にある葉緑素などの細かい成分がお湯の中に溶け出しやすくなります。
そのため、見た目にも鮮やかで、栄養成分が豊富に含まれていることを示唆する美しい緑色が現れます。
この濃厚な緑は、掛川茶の味わい深さを視覚的にも伝えてくれます。
特徴③:茶葉が細かく粉状になっている
掛川茶の茶葉は、一般的な煎茶と比べて細かく、粉状の部分が多いのが特徴です。
これは、深蒸し工程で茶葉が多くの蒸気を含むため、組織がもろくなることに起因します。
その後の揉み工程や乾燥工程で、茶葉の先端や縁が自然と砕け、細かい粉末状の茶葉が多くなります。
この細かい茶葉がお湯を注いだ際に素早く広がり、お茶の成分を効率よく抽出させる役割を果たします。
そのため、短時間で濃厚な味と色を引き出すことが可能です。
また、この粉末状の茶葉には水に溶け出しにくい健康成分も含まれており、お茶を飲むことで茶葉の栄養をまるごと摂取しやすいという利点もあります。

なぜ掛川茶は深蒸しなのか?その歴史的背景
掛川で深蒸し茶の生産が盛んになった背景には、この土地の地理的条件が深く関わっています。
掛川周辺は日照時間が長く、太陽の光をたっぷりと浴びて育つため、茶葉が厚く、力強い味わいになる傾向がありました。
しかし、この厚い茶葉は、従来の製法(浅蒸し)では渋みが強く出てしまうという課題も抱えていました。
そこで、この渋みを抑え、茶葉の持つ旨みや甘みを最大限に引き出すために生み出されたのが「深蒸し製法」です。
蒸し時間を長くすることで、茶葉の芯まで熱が伝わり、渋みをまろやかにし、コク深い味わいへと変化させることができました。
つまり、掛川茶の深蒸し製法は、地域の茶葉の特性を活かすための先人の知恵と工夫の結晶なのです。
掛川茶が日本有数のお茶として評価される理由
掛川茶が全国的に有名で、時には高級茶としても扱われるのには明確な理由があります。
それは、単に深蒸し茶という製法の特徴だけでなく、その原料となる茶葉を育むための恵まれた自然環境、伝統的な農法、そして客観的な品質評価に支えられているからです。
これらの要素が一体となって、掛川茶のブランド価値を確固たるものにしています。
ここでは、掛川茶が高い評価を受ける3つの理由を掘り下げていきます。
お茶の栽培に適した日照時間と豊かな土壌
掛川市は、年間を通じて温暖な気候と長い日照時間に恵まれており、お茶の木が元気に育つための理想的な環境が整っています。
太陽の光を十分に浴びた茶葉は、光合成を活発に行い、旨味や香りのもととなる成分を豊富に蓄えます。
また、市の北部には山が連なり、そこから流れる清らかな水が茶園を潤しています。
土壌は、砂と粘土がほどよく混ざった水はけの良い土質で、お茶の根が深く張り、養分をしっかりと吸収するのに適しています。
このような豊かな自然環境が、肉厚で生命力にあふれた高品質な茶葉を育む基盤となり、掛川茶の美味しさを根底から支えています。
世界農業遺産に認定された伝統的な「茶草場農法」
掛川茶の品質を支えるもう一つの重要な要素が、世界農業遺産にも認定された「茶草場農法」です。
これは、掛川市東山地区などを中心に古くから受け継がれてきた伝統的な農法で、茶園の周りにある採草地(茶草場)で刈り取ったススキやササなどの草を、有機肥料として茶畑に敷き詰めるというものです。
この茶草が土壌の保湿性を高め、微生物の活動を活発にすることで、ふかふかで肥沃な土壌を作り出します。
化学肥料だけに頼らず、自然の循環を利用して土を豊かにすることが、お茶の味や香りを一層深くするのです。
この持続可能な農法は、生物多様性の保全にも貢献する点が高く評価されています。
全国茶品評会で証明された確かな品質
掛川茶の品質の高さは、国内で最も権威のあるお茶のコンテスト「全国茶品評会」の結果によっても客観的に証明されています。
特に「深蒸し煎茶の部」において、掛川市は全国の数ある産地の中で最多の産地賞を受賞するという輝かしい実績を誇ります。
産地賞は、個々の農家の評価だけでなく、地域全体として出品されたお茶の品質が総合的に優れていなければ受賞できません。
この事実は、掛川の生産者たちが一丸となって高い技術力を維持し、品質向上に努めていることの証です。
長年にわたる連続受賞は、掛川茶が常に安定した高品質を保ち続けていることを示しており、消費者にとっての大きな信頼につながっています。
自宅でできる!掛川茶(深蒸し茶)の美味しい入れ方
掛川茶(深蒸し茶)は、その特徴を理解するだけで、誰でも家庭で簡単に美味しく淹れることができます。
正しい入れ方を実践することで、掛川茶本来のまろやかな甘みと深いコクを最大限に引き出し、同時にカテキンなどの健康に良いとされる成分も効率よく摂取することが可能です。
これから紹介する4つのポイントを押さえて、ぜひ格別な一杯を楽しんでください。

①お湯は少し冷まして70〜80℃で淹れる
掛川茶の甘みと旨みを引き出すために最も重要なのが、お湯の温度です。
沸騰したての熱湯(約100℃)を直接注いでしまうと、お茶の渋みや苦み成分であるカテキンが多く抽出され、せっかくのまろやかさが損なわれてしまいます。
美味しさを引き出す最適な温度は、70〜80℃です。
一度沸騰させたお湯を湯冷ましや湯呑みに一度移すことで、簡単にお湯の温度を下げられます。
このひと手間を加えることで、渋みの抽出を抑えつつ、旨み成分であるアミノ酸(テアニン)をじっくりと引き出すことができ、掛川茶ならではの甘くまろやかな味わいを堪能できます。
②茶葉は一般的な煎茶よりやや多めに入れる
掛川茶の濃厚な味わいを存分に楽しむためには、茶葉の量を一般的な煎茶よりも少し多めに使用するのがおすすめです。
深蒸し茶は茶葉が細かく、かさが小さいため、同じスプーン1杯でも実際の重量は軽くなる傾向があります。
そのため、普段お使いの急須に、1人あたりティースプーンに山盛り1杯(約3〜4g)を目安に入れると良いでしょう。
人数分より少し多めの茶葉を入れることで、お茶の成分がしっかりと抽出され、掛川茶ならではのコクと深みのある味わいをより一層感じることができます。
お好みで量を調整して、自分だけのベストな濃さを見つけるのも楽しみの一つです。
③抽出時間は30秒〜40秒と短めにする
掛川茶を淹れる際の抽出時間は、短めが基本です。
深蒸し製法によって茶葉が細かくなっているため、お茶の成分が非常に出やすいという特徴があります。
そのため、お湯を注いでから30秒から40秒程度待てば、十分に美味しいお茶を淹れることが可能です。
あまり長く時間を置きすぎると、必要以上に渋みや雑味が出てしまい、掛川茶本来のまろやかさが損なわれてしまいます。
急須をゆっくりと揺らさず、静かに待つのがポイントです。
短時間で旨みとコクが凝縮された一杯を淹れられる手軽さも、深蒸し茶の魅力の一つと言えるでしょう。
④「ゴールデンドロップ」と呼ばれる最後の一滴まで注ぎ切る
お茶を湯呑みに注ぐ際は、最後の一滴まで大切に注ぎ切ることが重要です。
この最後の一滴は「ゴールデンドロップ」とも呼ばれ、お茶の旨み成分が最も凝縮されています。
複数の湯呑みに注ぐ場合は、それぞれの濃さが均一になるように、少量ずつ順番に注ぎ分ける「廻し注ぎ」を行いましょう。
そして、急須を軽く振って、最後の一滴までしっかりと出し切ってください。
こうすることで、一杯目のお茶が格段に美味しくなるだけでなく、急須の中に余分なお湯が残らないため、茶葉が蒸れて渋くなるのを防げます。
その結果、二煎目も美味しく淹れられます。
まとめ
掛川茶は、静岡県掛川市の恵まれた自然環境と伝統的な農法に支えられ、深蒸し製法によって作られる日本を代表するお茶です。
蒸し時間を長くすることで生まれる、苦渋みが少なくコク深いまろやかな味わい、濃厚で美しい緑色の水色、そして細かい粉状の茶葉がその主な特徴といえます。
全国茶品評会での数々の受賞歴は、その品質の高さを物語っています。
お湯の温度を70〜80℃に設定し、抽出時間を30〜40秒と短めにすると、家庭でも手軽にその美味しさを最大限に引き出すことが可能です。
これらの特徴と背景を理解することで、掛川茶をより深く味わうことができます。