コラム

かぶせ茶ってどんなお茶?かぶせ茶の特徴や魅力を総まとめ

2025.8.15

かぶせ茶は、日本茶の中でも特にその製法に特徴があり、豊かな風味を持つお茶です。このお茶は、日光を遮る「被覆栽培」という独特な栽培方法によって育てられ、その結果、他の緑茶とは異なる特別な味わいと香りを生み出します。
この記事では、かぶせ茶について、その定義から製法、特徴、他の茶種との比較、主要産地、そして美味しい淹れ方や楽しみ方に至るまで、詳しくご紹介します。

かぶせ茶の概要

かぶせ茶は、その独特な栽培方法によって他のお茶と区別される緑茶の一種で、日本茶の多様な魅力の一端を担っています。このお茶は、煎茶のさわやかな苦渋味と玉露の深い旨味を併せ持つ「いいとこ取り」のお茶と称されることもあります。

かぶせ茶の定義

かぶせ茶は、漢字で「冠茶」とも表記され、その名の通り、茶葉を摘み取る前に寒冷紗やワラなどの遮光幕で茶の木を覆い、日光を遮って栽培される緑茶の一種です。この栽培方法は「被覆栽培」と呼ばれ、日光を遮る期間は、一般的に収穫前の1週間から10日前後とされています。京都の宇治茶では、被覆期間を2週間以上設けたものをかぶせ茶と定義しています。この被覆栽培によって、茶葉の緑色が濃くなり、渋みが少なく旨みを多く含むお茶が育つのです。
かぶせ茶は、広義には煎茶に分類されますが、玉露と煎茶の中間に位置するお茶として知られています。玉露も同様に被覆栽培されますが、玉露の被覆期間が20日から30日程度と、かぶせ茶よりも長いです。

被覆栽培によるかぶせ茶の製法

かぶせ茶の製法は、被覆栽培という点が大きな特徴です。茶摘みの1週間から10日前後という時期に、茶の木に直接寒冷紗やワラなどの遮光幕をかぶせることで、茶葉が直射日光を浴びるのを防ぎます。この被覆栽培によって、茶葉内で旨み成分であるテアニンが苦味成分であるカテキンへと変化するのを抑制することができます。
テアニンは、根で作られたアミノ酸の一種で、日本茶の旨味をもたらす主要な成分です。日光を遮ることで、テアニンがカテキンに変化しにくくなり、結果として旨味や甘みが強く、渋味や苦味が抑えられたお茶となるのです。
また、日光を遮られた茶葉は、より多くの光エネルギーを取り込もうと葉緑素(クロロフィル)を増やすため、鮮やかで艶のある深緑色の茶葉に育ちます。このように、被覆栽培はかぶせ茶の味だけでなく、見た目の特徴にも大きく影響を与えています。

かぶせ茶の特性

かぶせ茶は、その独特な栽培方法により、他の緑茶とは異なる特別な特性を持っています。この特性は、茶葉に含まれる成分のバランスによって生み出され、味や色、香りといった要素に現れます。特に、旨味成分であるテアニンと渋味成分であるカテキンの絶妙なバランスが、かぶせ茶の大きな特徴です。

かぶせ茶の風味

かぶせ茶の大きな特徴は、その豊かな旨味と甘み、そして独特の「覆い香(おおいか)」と呼ばれる香りです。被覆栽培によってテアニンが多く含まれるため、渋みが少なく、まろやかでコクのある味わいとなります。
また、煎茶のさわやかな苦渋味と玉露の深い旨味を併せ持つ「いいとこ取り」の風味も魅力の一つです。茶葉の色は、日光を遮ることで葉緑素が増えるため、煎茶よりも鮮やかで、玉露に近い深緑色になります。水色は赤みが少なく、少し青みがかった緑色で、わずかなにごりがあるのが特徴です。
かぶせ茶は、淹れ方によってもその風味を変化させることができ、低温でじっくり淹れると玉露のような旨味と甘みが引き立ち、高温で淹れると煎茶のようなさっぱりとした味わいを楽しむことができます。

かぶせ茶と他のお茶の違い(煎茶、玉露、深蒸し茶など)

かぶせ茶は、栽培方法と風味において、煎茶や玉露、深蒸し茶といった他のお茶と明確な違いがあります。
最大の相違点は、収穫前の「被覆栽培」の有無と期間です。
煎茶は、被覆を行わず、日光を十分に浴びて育つため、バランスの取れた渋味とキレが特徴です。
一方、玉露は20日から30日、または1ヶ月前後と、かぶせ茶よりも長い期間被覆されます。この長い被覆期間によって、玉露は非常に濃厚な旨味と甘み、そして独特の「覆い香」が生まれます。
かぶせ茶は、被覆期間が1週間から10日前後と玉露より短いため、煎茶のさわやかな風味と玉露の旨味や甘みを併せ持つ、まさに「いいとこ取り」のお茶と位置づけられています。

成分面では、日光を遮ることで、旨味成分であるテアニンが苦味成分であるカテキンに変化するのを抑制するため、かぶせ茶は煎茶と比較してテアニンが多く、カテキンが少ない傾向にあります。
また、お茶に含まれるカフェインの量は、チャノキの種類や栽培環境によって異なりますが、かぶせ茶にもカフェインが含まれており、健康上の効果も期待されています。

深蒸し茶は、煎茶の一種で、通常の煎茶よりも蒸し時間を長くすることで作られます。これにより、茶葉が細かくなり、濃厚な風味と深い緑色の水色が得られます。
深蒸し茶は被覆栽培は行わないため、製法上の特徴がかぶせ茶とは異なります。
このように、かぶせ茶は被覆栽培という独自の製法によって、煎茶のさわやかさと玉露の旨味を兼ね備えた、バランスの取れた味わいが魅力の緑茶なのです。

かぶせ茶の産地

かぶせ茶の主要な産地は、三重県です。三重県は、静岡県、鹿児島県に次ぐ全国第3位のお茶の生産面積・生産量を誇り、「伊勢茶」として広く知られています。特にかぶせ茶の生産量においては全国1位を誇り、全生産量の3分の1以上を三重県が占めています。三重県内では、四日市市の水沢地区が特に著名で、かぶせ茶の主産地となっています。水沢地区は、2000年時点で全農家306戸のうち、約92%にあたる281戸が茶栽培を行っており、地域の農業に深く根付いています。三重県北勢地域(いなべ市、菰野町、四日市市、鈴鹿市、亀山市)にかけての山間地は、平均標高300mの鈴鹿山麓一帯に位置し、昼夜の温度差が大きいこと、鈴鹿川からの朝霧が発生して天然のカーテンとなること、そして水はけのよい礫質土壌であることなど、良質な茶が育つ絶好の条件が揃っています。また、三重県の一部の地域では二番茶までしか摘まないため、肉厚で香り高いかぶせ茶が生産されます。

三重県以外では、福岡県、佐賀県、奈良県、鹿児島県、長崎県、京都府、静岡県などもかぶせ茶の生産地として挙げられますが、三重県の生産量が圧倒的に多いです。
鹿児島県南九州の知覧茶もかぶせ茶の産地として知られており、早摘みの新茶で品質が高いことや、さえみどり、あさつゆなどの複数の品種があるため、それぞれの味わいの違いを楽しむことができます。
静岡県は緑茶の生産量・茶園面積が日本一ですが、温暖な気候のため露地栽培に適しており、かぶせ茶はほとんど生産されていません。
同じかぶせ茶でも、産地や栽培方法によって味わいが異なるため、様々な産地のお茶を試して好みの風味を見つけるのも楽しみ方の一つです。

かぶせ茶の味わい方

かぶせ茶の最大の魅力の一つは、その淹れ方によって多様な味わいを楽しめる点にあります。
煎茶のようなさわやかさと玉露のような深い旨みを併せ持つかぶせ茶は、淹れるお湯の温度や浸出時間を調整することで、さまざまな表情を見せてくれます。

かぶせ茶の適切な淹れ方

かぶせ茶を美味しく淹れるには、お湯の温度と浸出時間が重要なポイントです。
一般的に、かぶせ茶の適温は70℃から85℃とされていますが、旨味と甘みを最大限に引き出すためには、60℃から70℃程度の低温でじっくりと淹れるのがおすすめです。

一般的な淹れ方(2人分)の目安は以下の通りです。
まず、沸騰したお湯を用意し、湯冷ましや湯呑みに移して適温まで冷まします。お湯は湯呑みから急須、そして湯冷ましへと移すことで、約10℃ずつ温度が下がると言われています。茶葉の量は、1人分約2g~3g(ティースプーン1杯程度)を目安とし、急須に入れます。2人分の場合は、茶葉約5g、お湯約120mlが目安です。冷ましたお湯を急須にゆっくりと注ぎ、蓋をして40秒から90秒ほど待ちます。湯冷ましや急須の形状によって、多少時間の調整が必要となります。

複数人で飲む場合は、お茶の濃さが均一になるように、少しずつ均等に回し注ぎ、最後の一滴まで注ぎきるようにしましょう。最後の一滴まで注ぎきることで、茶葉の旨みを余すことなく味わえ、二煎目も美味しく淹れることができます。

二煎目以降は、お湯の温度を少し高めにし、浸出時間を短くすることで、異なる風味を楽しむことができます。例えば、二煎目は80℃程度のお湯を注ぎ、すぐに注ぎ分けるのが良いでしょう。また、濃いお茶が好きな場合は、茶葉の量を増やしたり、浸出時間を長くしたりして調整してください。

かぶせ茶を楽しむヒント

かぶせ茶をより一層楽しむためのヒントをいくつかご紹介します。かぶせ茶はその多様な特性から、さまざまな飲み方や楽しみ方が可能です。

まず、季節や気分に合わせて淹れ方を調整してみましょう。低温でじっくり淹れることで、玉露のような濃厚な旨味と甘みを堪能できます。一方、熱めの湯でさっと淹れると、煎茶のようなさっぱりとした清涼感のある味わいを楽しめます。同じ茶葉でも温度を変えるだけで全く異なる表情を見せるのが、かぶせ茶の面白い特徴です。

夏場には、水出しでかぶせ茶を楽しむのもおすすめです。冷たい水でゆっくりと抽出することで、渋みが抑えられ、まろやかな甘みが際立ち、すっきりとした喉ごしが味わえます。水出しは、寝る前やリラックスしたい時にも適しており、カフェインの抽出が抑えられるため、カフェインが気になる方にも良い選択肢となります。

また、かぶせ茶は食事との相性も抜群です。そのまろやかな旨味は和菓子はもちろん、洋菓子にも良く合います。食後にすっきりとしたお茶を楽しみたい場合は、少し熱めに淹れてさっぱりとした味わいを、逆にまったりと甘いお茶を楽しみたい場合は、ぬるめに淹れて旨味を引き出すと良いでしょう。

かぶせ茶は、品質の高いものが多く、手軽に高級茶の風味を味わえるのも魅力です。様々な産地のものを試したり、同じ産地でも異なる淹れ方を試したりすることで、自分だけのお気に入りの味わいを見つけることができるでしょう。日常のティータイムに、かぶせ茶を取り入れて、その奥深い世界をぜひご堪能ください。

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